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第38回 アメリカの鉄道政策史(12) 米国独占禁止法

  • 2011-11-25 (金) 17:51
  • 物流

 アメリカの「アンタイ・トラスト法」は1890年に成立した独占的行動を規制する法律であり、農民に対する選挙公約として生まれた法律であった。他に多くの案があったが、オハイオ州選出の上院議員ジョン・シャーマンが上程した案が成立し「シャーマン・アンタイ・トラスト法」と呼ばれている。その後何十年にも亘って批判され続けてきた法律でもある。というのは平気な顔をして経済界から多額の課徴金を巻き上げたり、時には重役を監獄へ放り込むこともする。怖い法律である。前回述べたように「理由の如何を問わず」(par se)重罰にかけるから「ベネボレントな人」(慈悲深い善人)には向かない。レーガン大統領(1980年代)はなんとアンタイ・トラスト関係職員の80%の首を切ってしまったという記録がある。シャーマンは時代が違うとはいえ、レーガンとは全く逆に殆どの大企業や多くの中小企業の幽霊重役になったという記録もある。
 話が脱線したので元に戻すと、その当時のアメリカはロックフェラーの石油資本をはじめ、産業の工業化が急速に進んだ時期であり、企業が持ち株会社(トラスト)によって独占化を進めていたのである。この現象を「トラスト・バステイング」(Trust Busting)という。だからトラストはきわめてアメリカ的な企業合同の形態である。地理的にも、かなり広い範囲にわたる社会経済運動であり、鉄道について言えばアメリカ東部から西部に至る鉄道の合併運動(Merger  Movement)によって急速に大規模化が進んだ(既述)。この運動は南北戦争以後から始まったものであり、アメリカ経済において工業化が進んだ時期と重なる。
 鉄道の普及と共に、企業規模の拡大、生産の機械化、中小都市の大規模化などが進み、交通問題では都市間交通と都市交通の分化(ロングホール・ショートホール問題の発生〔近距離運賃の割高問題〕)、鉱山鉄道の普及、貨物輸送品目・運賃制度の多様化、運賃競争の激化など、その後の差別運賃・リベートの一般化(ロックフェラー・トラストの運賃が8割引であるとか、大企業社員への無料パスの提供)などの自由競争の弊害が顕在化し、自由主義に反対する社会運動や労働運動の頻発や農産物価格の低下を招き、グレンジャー運動の再発などの政治運動化が起こった。鉄道経営者は株式の過剰発行(株式の水浸し:stock watering)をしたため農民に対する配当金の低下による被害が広がった。そのような背景から、「刷新運動」と「鉄道規制」を求める市民感情が広がり、それが政治運動へと広がっていった。     
 このような背景から、激しい鉄道運賃引き下げ競争から生まれたと言われる「カットスロート・コンペティション」(喉元を切り裂くような競争-この言葉は今では競争を嫌う極めて感情的な言葉と思われているようである-)を封じ込め、合併や協定が広がりを見せるようになった。こうして生まれた新しい独占が『トラスト』であり、具体的には『持ち株会社』(Holding Company)の別の表現であると見るのが正しいようである。シュンペターという著名な経済学者は独占を容認しているが、それは独占者であるが技術革新の推進者でもあったからである。
 「アンタイ・トラスト法」は1889年にまずカンザス州で成立し、1891年には18州にまで広がった。19世紀とは違った懲罰主義的・司法取引的とは違ったところに視野を広げる必要があろう。政治・経済・文化に視角を広げながら時代に応じた選択が可能な「制度」に焦点を当てる必要があるのではなかろうか。最近注目を集めている一冊の著書、「産業政策を鍛える」という表題のF. Dobbinの著書が優れている。独占禁止だけに走り、制度論を無視した政策論として競争政策は殆ど意味がない。それには社会的良識派の人格的陶冶に期待する以外には道はない。

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